まるでホラー!愛されたい男がサイコパスになる怖すぎ小説【火の粉】の感想

自由な時間
これは怖い!ミステリーというよりホラー。幽霊こそでてこないけど、じわじわ忍びよるあの恐怖に背中がぞくぞくしました。
かなりボリュームはあるけど、続きが気になって一気に読んでしまうほどおもしろい。寒くなりたい人にぜひおすすすめしたい1冊です。
(星5つ)

 あらすじ(ネタバレなし)

雫井脩介(しずくい しゅうすけ)さんの『火の粉』。

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「プレゼントしたネクタイを使ってくれなかったから」

幼い子どもを含む一家3人を殺害したとして逮捕された隣人・武内慎伍(たけうちしんご)が語ったのはそんな動機だった。

しかし裁判になると武内は一転して犯行を否認。裁判官の梶間勲(かじまいさお)は証拠不十分として無罪をいい渡した。

判決を不服とした遺族や検察官に詰めよられる梶間だったが、意に介さず。彼は退官の日を目前としていた。

ー2年後、梶間の前に武内があらわれる。

無罪判決に恩義を感じ、親しげに近づいてきた武内を感慨深く受け入れた梶間であったが、まもなく燐家の空き家に武内が越してきてからすべてが狂いだす。

あの判決は正しかったのか。

武内はなんのために梶間に近づいてきたのか。

感想

いやもう、とにかく怖かった。

武内がじわじわと梶間家のなかに入り込んでくる過程が実に気持ちわるい。

用意周到に仕組まれたいくつもの罠が、1本につながったときの恐怖っていったらない。

読者として俯瞰してみるからこそその恐ろしさがわかるけど、隣人だったらまさかこの親切で優しい人が…と思うよね。

後半は非常にスピード感があって、常に物陰にあの男が潜んでいるかのような錯覚をおぼえてしまうほど。

描かれているなんでもない日常の出来事がどれもこれも疑わしく思えてきた。

登場人物たちが良くも悪くも人間味にあふれていて、普通の家庭にでも起こりうるほころびが、武内にとってはかっこうの餌食であるところがこわい。

ドラマ版で武内を演じたのはユースケ・サンタマリアさん。適役だったし、ドラマ版もおすすめです。

家族のほころびにしのびよる武内

どんどん武内につけこまれていく梶間家の危うさにハラハラします。

でも総じて男性陣がダメダメ。梶間勲も、息子の俊郎も。

妻・尋恵(ひろえ)

梶間の妻・尋恵は、認知で寝たきりの姑の介護にかかりきりで、精神的にも追い詰められていくのに、勲のサポートは皆無。

たまにやってくる義姉はまるで査察するかのようで。

そんな尋恵の愚痴をきき、介護を手伝ってくれたのが武内だった。そりゃ信頼するよね。

このときの武内は入り込もうとしたというよりも、尋恵さんをみていられなかったっていうのもあったと思うな、純粋に。

だけど好意はエスカレートする。その加減が武内にはわからないんだ。

嫁・雪見

俊郎の妻・雪見だけは、梶間家のなかで唯一、親切な隣人に不快なものを感じていたのだけど、武内がそれを見逃すわけもなく。

彼女が梶間家から疎まれるように罠をしかけ、俊郎までもが雪見を疑い、ついに追い出されてしまう。

その追い詰められかたが、同じ母として辛かった。

誰にでもあるような子育て中の母親の葛藤を、そこから生じたことを、絶妙に掛け合わせるだけで、周囲のみる目が一転してしまうんだなっていう怖さを感じた。

子育ての描写がリアルなことに驚いたし、だから余計に感情移入してしまいます。

武内は愛されたかっただけ

せつないのは、武内の生い立ちが愛に飢えていたっていうこと。

家族が欲しくて、愛されたくて。人の家庭に巣作るようにはいっていくの。

根本にある「家族はひとつになって仲良くするべき」っていう思いが、いがみ合う家族に対する苛立ちに変わる。

自分のほうを向いてほしいがための行動が、狂気じみてくる。

愛し方も愛され方も知らずに育って、子どもの頃からずっと火の粉を撒き散らしながら生きてきたような、そんな男。

その火の粉を振り払うのをためらっていたら、焼き尽くされてしまう。

これは精神的にすごく疲れる小説!でもおもしろかった。

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