読書感想【人魚の眠る家・東野圭吾】子どもの脳死に親は臓器提供の答えをどう出すか

「言いたいことがあったら小説でいう」東野圭吾さんのエッセイの中の一文。

彼がこの小説で伝えたかったのは、子どもの臓器提供を否定することでも肯定することでもなく、日本における現実です。

愛する我が子の臓器を提供する親、拒む親、そして臓器を待つ親、それぞれの葛藤や苦しみが描かれています。

子を持つ親として自分に置きかえて考えてみるのだけれど、辛すぎる。登場する親たちの深い愛情と、想像を絶する苦痛に胸が苦しくなるばかりでした。

(星5つ)

スポンサーリンク

ざっくりあらすじ

娘・瑞穂の小学校受験が終わったら、別居中の夫・和昌と離婚することを播磨薫子はすでに決めていた。

その日は子どもたちを両親にあずけ、娘の受験の打ち合わせのために夫と顔を合わせていた。そこに不幸を告げる1本の電話がはいる。

「瑞穂がプールで溺れた」

病院に駆けつけた夫婦が見たのは、様々なチューブで繋がれた娘の姿だった。「止まっていた心臓は動き出したが、脳は機能していない」と医師は告げた。

泣き崩れる薫子。現実を受け入れる間も無く「臓器提供」の意思が確認される。

娘の性格を思いだすと、あの子なら「誰かの幸せのために」臓器提供をのぞむかもしれない。悲しみに打ちひしがれながらも薫子は医師に臓器提供の意思を告げた

しかし、最後のお別れに瑞穂に触れたとき、その手の温もりを感じたとき、薫子の中の止まりかけていた感情が動きだす。

「娘は生きています!臓器提供は拒否します」

娘への深い愛情が、皮肉にも薫子のながい戦いの幕開けとなってしまう。狂気にむしばまれていく。

人魚の眠る家

人魚の眠る家

東野 圭吾
1,728円(10/19 00:00時点)
発売日: 2015/11/18
Amazonの情報を掲載しています

感想

眠りつづける娘に特殊な装置をつなげ、まるであやつり人形のように動かして「娘は生きている」と主張する薫子。

狂気さえ感じるその行動を「異常だ」「怖い」なんていうことはできなかった。

その選択をするかどうかは別として、同じ母親として彼女の気持ちを否定することなんてできないと思う、誰も。

もし自分がその立場だったら…… 想像なんかできない、こんな辛いこと。だからこそ否定も肯定もできないし、それが薫子の愛情表現なんだと感じるだけ。

異常な行動さえともなう強い愛情が、薫子の悲しみの深さを物語っていて、恐怖というよりも胸がぐっとえぐられるような苦しさを感じた。

薫子の行動は加速し「悲劇の母親」だった彼女は周囲から「異常な母親」といわれるようになっていく。それでも、少しのゆらぎもなく娘の”生”に固執しつづけていた。

いや、<固執しつづけていた>ように見えていただけ。

薫子のなかで起こっていた激しい葛藤。だれも気づいていなかった心の揺れ。

そんな薫子の想いを明らかにするときの東野圭吾は、さすがというばかりで涙腺崩壊でした。

東野圭吾がつたえる臓器提供のこと

2010年7月に、改定した臓器移植法が施行されたことにより、家族の承諾があれば15歳未満の子どもの臓器提供が可能になりました。

しかし15歳未満の臓器提供が認められたとはいえ、日本ではあまり進んでおらず、作中ではそういった現状への問題提起などもされています。

だけどその「問題提起」は、「広まっていないことが問題だ」と訴えるわけじゃありません。

小説の中で、提供する側・される側の家族をえがき、その難しい問題の背景にある現実をみせてくれる。深く考えるきっかけを与えられるのです。

実際に臓器提供をした家族のこと

2015年6月、日本ではじめて小児用の補助人工心臓が認可されました。それまで、心臓をわずらった子どもたちは成人用の補助人工心臓しか装着することができなかったのです。

しかしそれは体の小さな子どもにとってリスクがありました。血栓(血管にできる血の塊)を生じやすく、その塊が血管をつうじて脳にはこばれれば、脳梗塞を引き起こします。

だけどそれしか方法がなかったのです。

2015年1月、「突発性拡張型心筋症」を患っていた6歳の女の子が、成人用の補助人工心臓により脳死におちいりました。

ご両親は「自分たちも待っている側だったから」と、6歳の娘の臓器を提供するという決断をしました。

その後、ご両親は「日本での小児用補助人工心臓の認可」をうったえ、承認されるきっかけとなりました。

そんなご家族にまつわるような出来事も小説の中では描かれています。

臓器提供者になったわが子 ――「家族に遺された光です」 - Yahoo!ニュース
「脳死」状態になったわが子を前に臓器提供を決意した2組の夫妻。その物語を追いながら、臓器移植のいまを考えた。

フィクションの小説でありながらノンフィクションの要素も多く含んでおり、読了後もずっと考えさせられる1冊です。

人魚の眠る家

人魚の眠る家

東野 圭吾
1,728円(10/19 00:00時点)
発売日: 2015/11/18
Amazonの情報を掲載しています

コメント

  1. 本・・・読んでみたいけど、怖い。
    自分だったらどうするだろうか・・・・
    以前海外で、無脳症で生まれた子供の臓器を提供したご夫婦が居たと聞きました。
    「この子が産まれてきた意味ができるから」と。。。(;_;)
    私だったら・・・・の考えに答えは出そうにありません。

  2. ウキこ (id:ukilucky34)さん、コメントありがとうございます。
    そう、かなり辛いです。私も「無理だ、無理だ」と頭の中でぐるぐるしてました。
    でも知らなかったことを知るきっかけになったし、こういう現実があるんだと向き合わされます。